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「まあ、大変だよな……」
うさぎの声に、私はまた我に返る。
うさぎはまた赤いドアを静かに閉めた。
見ると幸平はうさぎにおんぶされて寝ていた。あらまあ、うさぎさん小さいのに意外と力持ち。
「重いんだが」
実は落とさないように必死で頑張っていたうさぎを見て、私は思わず笑った。
「ありがとう、うさぎさん」
幸平を受け取る。
うさぎは肩を回しながらまた歩き始めた。今度はそんなに離れず私のすぐ前を歩いている。
そう言えば私はスーパーの買い物袋も持ったままだった。
おんぶして袋を持ち変えていると、幸平が目を覚ます。
「ママ、お腹すいた……」
言われて私も空腹を思い出す。
袋からバナナを取り出して幸平に渡し、自分も別の一本をかじった。
「うさぎさんもどう?」
「どっちかというと、そっちがいい」
うさぎはホウレン草を指差した。
ふうん、葉っぱが好きなのか……
私はホウレン草を一株、うさぎにあげた。
「どの物件がいいか選んで」
うさぎは葉っぱをむしゃむしゃ食べながらチラシのような紙を私に渡す。
家が数件載っている。
150万、300万、450万……
家賃高っ! こんなの無理!
「よく見て」
えっ? よく見てって言われても……
あ、これ家賃じゃない。値段だ。値段?!
「安っ……」
どの家もそんなに古くもボロボロでもない。
この150万の家なんて月三万ほどでも五年もあれば買えてしまう。しかもキッチンの他に四部屋もある。
今の1DKのボロアパートだって、月六万以上するのに……
「空き家対策だよ」
うさぎは言った。
「地方に行けば条件のいい格安物件なんてゴロゴロあるさ」
うさぎは更に数枚の紙をパンツから取り出してヒラヒラさせた。
「他にも条件さえ満たせば、無料同然で住めるところだってあるぜ。農業とか、後継者不足のところも多いからな」
地方に住む……そんなこと、考えたこともなかった。
「とりあえずここにする?」
うさぎは150万の物件を指さして言う。
私がうなずくと、うさぎは私にかけていたサングラスを外した。
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