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「その……、返事は、いつでもいいから」
――って。この言い方じゃ、プロポーズの返事待ち以外の何物でもないじゃないか。
耐えられない。
恥ずかしい。
これは、恥ずか死ねるというヤツだ。
横顔すら見つめられず、彼女の横をすりぬけるようにして前を歩こうとする。
「……!」
が、その瞬間。
左手をがっちりと彼女に握られて、思わず立ち止まる。
何かを言われるかと思いきや、少しうつむき加減の彼女は静かに僕の行く手を遮るように立つ。
手が握り直されて、指が交互に重なる。
そして――。
――再び、唇が重なり合った。
◇
しばらくの口吻の後、彼女は黙ったままでこちらを見て、いつものようにオトナっぽく微笑む。
その微笑みは夕陽に染まって、夕陽よりも紅い。
でも、きっと僕は、それ以上に紅色に染まっているのだろう。
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