8人が本棚に入れています
本棚に追加
小学二年生のときに家庭の都合で海外に行った彼女が、再びこの地に帰ってきたのは中一のとき。
はじめて『好き』を自覚したのは中二の冬。
付き合うようになってからは、まだ三週間くらい。
今でも、夢なのではないかと思ったりする。
そもそも、彼女がこちらに帰ってきたときに、僕のことを覚えていてくれたことからして夢なんじゃないかと思えるくらいだった。
しばらく抱きしめて、一度少しだけ体を離す。
ともすれば無表情にも見えてしまうかもしれない、精密に作り上げられたような雰囲気さえあるその顔は、夕陽色に染められていた。
少しだけ身体を互いに離して、思わず見とれてしまう。
ああ、つまりはこれが『イイ雰囲気』と言われるモノなのか。
そんなことを考えているうちに、どれくらい見つめてしまっただろうか。
傍らには、互いのラケットケース。
校舎の陰に、ふたりだけ。
全然そんなことはないはずなのに、何だか悪いことをしている気になってしまう。
ふと気がつけば、彼女は静かに微笑んで顔を、唇を、こちらに近づけてきた。
――これは、つまり、そういうことでいいんだよな。
最初のコメントを投稿しよう!