"Lemon"

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 一瞬何のことかわからなかったが、その言葉には思い当たる節はある。 「レモンミントのタブレット食べてたから……かな」  何かエチケット的な問題を指摘されたらどうしようかと思っていたが、ひとまずは大丈夫なのだろうか。  こちらはいつだって彼女には敵いそうにもない。  心配事は尽きない。  悲しい性。 「んー……、まぁ、そういうことにしておくね」  すると彼女は何となく呆れたようにため息をついて、僕に背中越しに見ながら少し意味ありげな言い方をする。  もしかすると、ミントがどうとかそういうことじゃなかったのだろうか。  でも僕には、それ以外に考えられることはなかった。  とはいえ、無反応でいるのはよくないだろう。  僕が頷くとすぐに微笑んだ。  絵になる娘だ。 「でも、嬉しかったから。それだけは勘違いしないでね」 「んー……うん」 「なるほどね。でも、それもそっか」  どういうことかよくわからないのをあまりにも丸出しにしたような僕の反応に、彼女は当然気がついたらしい。  小走りで僕の前に来ると、人差し指で僕の口をおさえた。 「よく調べておいて」  年相応で少しばかり挑発的な顔を見せながら、ひらりと制服のスカートを風に泳がせる。  そのまま先へと進んでいこうとする彼女を、僕は急ぎ足で追った。
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