"Lemon"

1/4
前へ
/8ページ
次へ

"Lemon"

 諸々の身支度を済ませた部活終わり。  疲れた身体には夕焼けの眩しさが沁みる。  それは、体育館の時間の割り当ての都合上、たとえ1時間ちょっとしか使えなくても、だ。  こういう日は『練習の密度を上げなくちゃいけないんだ』という顧問が張り切るから、疲労感はもしかするといつも以上かもしれない。  正門からは少し離れたところのあまり人目にはつかない辺りにも、夕焼けの手は伸びてきている。  まだまだ新しい校舎の壁やガラスに反射する光も、こちらの方まで届いてきている。  少しだけスポットライトを浴びた気になって、気分が高揚しそうになる。  いや。  テンションが上がっている理由はそれだけではない。  むしろ、それがイチバンの理由ではない。  最大の理由は、間違いなくコレ。  ――ううん、違う。  ダメだ、ダメだ。  そんな言い方――『コレ』なんて言い方は失礼だ。  やり直し。  最大の理由は、間違いなくこの娘。  僕の腕の中にいる、この夕焼けくらいに明るい色をした髪が特徴的な、欧州系のハーフと見紛うほどに目鼻立ちのくっきりとした、贔屓目に見なくたって美人な女の子だ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加