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hide and seek
恐怖心を半分残したまま出来る限り高い場所へ行きたくて、風の強いビルの屋上で上ばかり見ていた。
巻き上げる勢いに前髪が絡み合うのを片手で戻しながら顔をしかめる。
完全に隠された日の光が目を細めたからといって届く訳もなく、見つめるほど覆い被さる空の重みに胸は痛くなるだけで。
心を抉る寂しさが襲いかかって影は濃くなった。
憂鬱は憂鬱のまま空は灰色のまま。
色の落ちかけたベンチに寝転んで抱き締めるように身体に乗せたギターを適当に鳴らしながら、掠れるほど小さな声で「もういいよ」と口ずさんだ。
かくれんぼみたいに誰にも気づかれない場所を探している。
「みいつけた」なんて言う姿などイメージも出来ない彼が見つけてくれるのを待っている。
一人きりでいたいのに、そのくせ彼の手を求めていた。
「おいっ」
「・・・おー」
「お前何してんの」
「ギターの練習」
「中でやれよ」
「何か、うるさくて」
「・・・・・」
馬鹿みたいだとわかっている。
少し強めの口調が切れた息がその姿が『愛している』と言っているみたく甘い光景に見える。
そばにいる時はまるで興味がなさそうなのに姿が見えない事をやけに嫌うのはどうしてか。
始まりを望むなら別れに耐えうる覚悟が必要だから。
気まぐれでこのかくれんぼに意味を見出してはいけなかった。
「おいって」
大きめの歩幅で近付いてきた彼が大袈裟に俺を覗き込み曇った空を遮り視界いっぱいを支配した。
凍るように男前な顔と見下ろす真っ直ぐの髪がさらさらと風に流れるスローモーション。
待ってなかった素振りも大丈夫という言葉も簡単に演じられるけど、時間が止まればいいといつも一瞬だけ本気で思いながら待っている事を伝えてみたくもなるほど。
思ったより早く見つけられて驚いたのとつまらないのと嬉しいのが混じって変な気分だ。
「服汚れるから」
「うん」
「戻るぞ」
「あ、待って」
「何だよ」
「はい」
「・・何」
「ちょっと、起こして」
「・・・・・」
甘えたな子供になりきって伸ばした手を舌打ちと同時に苛立ちが紛れた力で掴まえられたのに、面倒臭そうに体を起こす手は裏腹に優しくて。
地の底まで沈んでいきそうな重い身体と今にも消えてしまいそうな軽い心が容易く繋ぎ止められていった。
何処にも行けない。
逃げる事は出来ない。
ぶつかったままの視線の先で瞳がふわりと揺らぐ。
鬼ごっこではなくかくれんぼを選んだ理由と沈黙を蹴散らすように、抱えていたギターを奪い取った彼が弦を揺らした。
「ちょ、乱暴にすんなよそれいくらすると思ってんの」
「知らね。、、おっと」
「ぶつけた!今ぶつけただろ!」
「あははははっ」
目尻に涙が浮かぶ鼻の奥がツンと痛い既に彼の瞳の中に俺はいない。
埋められない孤独や虚しさを心の奥に隠して静かに空を見上げるその横顔を見ながら、何にも邪魔されたくないと心から願うこの時間もすぐに終わりを告げるなら誰もが抱えていると言った永遠を上手く飼い慣らせない俺の心は酷く弱くていつか壊れてしまうかもしれないと思った。
毎日何かと闘っている。
唯一彼だけを信じている。
昔より冗談を言う事が増えたけど嘘は吐かないそれだけが視界を照らしている。
泣いたら駄目だと言われているような。
その笑顔が見れなくなる前に俺は君より少しだけ早く消えたい。
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