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hide and seek−the other−
「何でここにいるってわかった?」
「馬鹿わかんねぇから探したんだっつの」
「そーか」
「急に消えんな」
「そーか?」
「そーだ」
「急だったか」
「・・・・・」
立ち上がって伸びをしている反った背中を視界の端に収めながら、さっきまで彼が寝転んでいたベンチに座って奪い取ったギターを適当に鳴らした。
じゃかじゃかと出鱈目な音が響く。
すぐにつまらなくなって投げ出すとそんなオレを軽く笑った彼がギターを持ち去った。
こんなシチュエーションにはそぐわない青空みたいなラブソングのイントロ。
どれほど見つめても漆黒の瞳にオレの存在が映っている気がしない。
無邪気な笑顔が懐かしかった。
もう一度あんなふうに笑う姿が見たかった。
永遠なんてないのに、ないのにあるんだと言ってしまいたくなるほど。
いつからか彼を纏う空気は薄く死の匂いがする。
『まあだだよ』
幼かった自分を思い浮かべながら「もういいかい」と頭の中でそっと呟くとやけにリアルな返事が聞こえた。
本当の気持ちはいつだって言葉に出来なくて逃げたくないのはオレも同じだなんて勿論言えるはずなくて。
それでも何も言えずに待っているから何処も行けずに待っているから何度も心を探しに行った。
儀式みたいなこの一連のやりとりに苛立ちを覚えても、姿が見えない事もそれ以上に心を見失う事が嫌だった。
AメロからBメロへ、歌詞が曖昧で鼻歌まじりに彼の音をなぞる。
細く長い指が器用に動くのを見つめる。
「君を愛している」その歌詞だけははっきりと覚えていたけれど変に気になってそのまま濁すと彼の手もゆっくりと動かなくなり耳に響くのは風だけになった。
オレは楽器が弾けない。
彼の世界を歌う事しか出来ない。
そして彼が此処に留まる理由になりたくてオレのこれまでを救って欲しくて必死に彼を探す時の、この気持ちを何と呼ぶ事が正しいのか誰も教えてはくれない。
「いい天気だな」
「・・・どん曇りだぞ」
「だからいいんじゃん」
光に溢れた場所がなくても息苦しい日々を忘れられる時がなくても、涙を見たら何処かへ攫ってしまいたくなるからどうか泣かないで。
憂鬱は憂鬱のまま空は灰色のまま。
明るい世界では見えない弱い光は薄暗い此処でだから見えるんだと小さな幸せを探す。
不思議そうに見上げた彼の視線を追いかけてYESにもNOにもならないような晴れでも雨でもない空にオレは嫌いじゃないよと大袈裟に笑った。
だけどこんな世界に一人きりには出来ないから。
その姿を見送って10数えたら目を閉じようオレはお前より10秒だけ長く生きよう。
空には笑い声が響いて風が止んだ。
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