heavy smoker

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heavy smoker

行為の直後の身体が嫌いだ。 痛みを伴わなくなった今でも胃が持ち上がったままの感覚とぷつりと切れたように冷静さを取り戻すたび吐き気がする。 そして大切に包まれた身体に違和感を覚える僕のこの身体が心底嫌いだ。 「煙草」 「ん?」 「僕もちょうだい」 「・・・駄目」 何でと言う代わりに見つめると身体に悪いからと彼は笑った。 彼はよく笑う。 写真以外は、とても。 苦しくても悲しくても笑うから時々どんな気持ちで笑っているのかよく考えないとわからなくなる。 たぶんそんな事は望んでいないだろうから、せめて僕くらいは彼の心の機微や幼さの欠片を見逃したくないと思うのはやっぱり傲慢なのだろう。 見つめるたびその笑顔の先を覗いても覗いたからといっていつも答えが出る訳じゃない。 煙草やめろよ、と言いながら彼が2本目に火をつけた。 どの口が言っているんだなんて正論は通じないとわかっているから何も言わず笑い返した。 身体がだるい。 薄暗い部屋で煙を吸い込む先が赤く光って浮かび上がる。 不可能に近い試練に立ち向かおうとしていた。 「やめようかな」 もう。 やめにしようか。 発した瞬間変わらない筈のベッドの沈みが少し深くなった気がした。 このまま埋もれて息も出来なくなって僕は僕を救えない。 夢ならたぶんここで目が覚めるのに。 突き刺すような喉の痛み。 きんとするくらいの静寂でぼんやりと彼の息遣いだけを聞いている。 俺のせいにすればいいよと彼が笑うたび胸が苦しい。 泣いているみたいに見えて涙が出る。 拭えない罪悪感を代償に得た温かさを手離すという事。 そんな事を望んでこの道を歩いてきた訳じゃない。 だけどどうしたら何もかもを捨て去って二人だけで飛び立てるか、そこが僕達の目指す終着点ならまだしばらくはもしかしたらずっと辿り着けないかもしれない。 「ねぇ」 「ん」 「長生きして」 「・・・は?」 「長生きして、僕より」 「・・・・・」 「・・・だから煙草ちょうだい」 「ふはっ、・・だーめ」 痛みは生きてる証拠だと、そんなふうに強くなれるなら。 彼を連れて遠くへ行けるなら月まで行けるなら。 何も考えられなくなるほど突き詰められて真っ白さを吐き出す一瞬の無重力。 一つになる為ではなく二人である事を確認する為に必死に繋がっている。 まだ半分残った煙草を灰皿に押し付けてこちらに向き直った彼がゆっくりと唇の端に触れた。 輪郭をなぞっていく指先。 伏せていた視線を彼に向けると唇が重なってもう一度目を閉じた。 噛み締める間もなく離れたほんの数秒に寂しさが募る心で諦めなくてはならないのがそれだとわかる。 「長生き出来るかはわからないけど」 「・・・・・」 「一人にはしないよ、心配しなくても」 もう、終わらせないと。 壊れてしまうからもう終わらせないとと呟くように繰り返した。 彼に聞こえない小さな音で。 笑った瞳は僕を見透かして繋いだ手でまた月に連れて行く。 涙で聞こえないふりをした。 上手く返事が出来ず脳裏に響いた。 まだ終わらせないと彼は言った。
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