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heavy smoker―the other―
決して滑らかとは言い難い彼の曲線をなぞる事に興奮さえ覚える自分は滑稽にも思えたし酷く自然な気もした。
「一人にはしないよ、心配しなくても」
目の前で消え入るように静かな息をする彼にそう言ってみせたけれど、長生きしてと冗談交じりの彼の言葉がじわじわと心を蝕んでくる。
うつ伏せになっていた彼がごろりと身体を回して天井を見た。
僅かに揺れた唇の動きが、その言葉を発したと聞こえなくてもわかっていた。
(もう終わらせないと。何でそんな事繰り返すんだ望んでもないくせに)
ぼんやりしていた彼の視線がふっと俺を捉えて何かに飲み込まれそうで可笑しくもないのに笑ってみせた。
まだ終わらせない終わらせたくない。
そう声に出したのか心で思っただけだったのか自分でもはっきりわからず、何も言わない彼を閉じ込めるように手を握った。
俺は彼より少しだけ強くありたい強ければいいと思う。
彼の中で狭く締め付けられる感覚と胸が痛むのが重なる。
焦りや苛立ちを掻き消すように繋がって暗闇を早送りし。
けれどどんなに必死にこの夜を越えてもまた夜は来る。
抗う為にまた彼を抱く。
その繰り返しに何の意味があるのか、苦しそうに眉間に皺を寄せて吐き出す彼の一瞬のそれに罪悪感や悲しみが混じって消えていけばと何度追い立てても、まるで天国にいるみたいに気持ちがいいのは俺だけだって知っている。
「なぁ・・・寝た?」
「・・・・・」
「・・・・・」
もう一度吸おうと煙草を手に取り火をつける直前に何故だか彼の笑顔が頭を過ぎってちらりと寝顔に視線を向けた。
身動ぎもせず安らかな顔をしている。
あまりに静かだからゆっくりと上下する胸の少し下辺りを確認して生きている事に安堵して、そしてそれから火をつけた。
白い煙が上っていく。
音もたたずに涙が溢れる。
こんなにも愛しい。
愛しいから彼の真っ直ぐな瞳がどうかこの弱さを探し当てたりしないように。
此処はもうごめんと言う事も許されないほど遠い場所だと誰かが笑っている。
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