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なるほど。たしかに言われてみれば人形の彫が深い顔立ちや、はっきりとした色使いは異国情緒を漂わせている。
――ここの守り神のような意味で建てられているのかもしれないな。
そう思わせるほどの威厳が、この人形からは感じられる。
正面に立って人形を観察した。黒色の絵の具でべったりと塗られた人形の大きな黒目。何度も塗り直されているのか、剥げている箇所もなければまったく色褪せていない。
物珍しい気持ちでまじまじと見つめているうちに、不意に黒目の部分がきゅっと縮こまった。え? と不思議に思った瞬間、両の黒目がさっと右端に偏った。まるで俺を見つめるように。
「――ひっ」
小さな悲鳴が口から出てしまった。
光沢のない人形の瞳は、最初と変わらずに真っ直ぐ前を見つめている。俺を見ただなんて――もちろん見間違えだ。この人形の目が、嫌な記憶と結びついて脳が錯覚を起こしたのだろう。
「慧、大丈夫か?」
「大丈夫。転びそうになっただけだよ」
俺は落ち着き払って誤魔化した。
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