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「じゃ、行こうぜ。みんな待ってる!」  克己の顔には早く遊びに行きたいという気持ちがありありと浮かんでいる。俺を急かすように言うと、軽快な足取りで先に進んで行く。 「あ、ああ。そうだな」  克己の後を追い、2体の人形の間を通り抜けてキャンプ場に足を踏み入れたとき、山の奥から強い向かい風が吹いた。樹々がざわめき、曼珠沙華が首を揺らした。一瞬、誰かの視線を感じたような気がしたが、それも気のせいだろう。  風は、土の香りがした。
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