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「たまに、お客様から怖いって言われるんですよ。泣き出してしまうお子さんもいらっしゃったりして。いっそのこと撤去しようかとも思ったんですが踏み切れなくてねぇ……」
「ここの守り神のようなものなんですか?」
「守り神? あっはっは。まさか。ただの趣味で作った人形ですよ。モデルにしたトーテムポールという物も、崇拝の対象というよりは家の表札代わりだったり記念碑だったりして、信仰というよりは芸術なのかな」
「そうなんですか。失礼しました。随分、こう……オーラがあったものですから」
俺がそう言うと、湯本さんはぱっと破顔した。
「いやぁ! もったいないお言葉です。いつも不気味がられてばかりなので嬉しいな。腐っても自分の作品ですからね」
湯本さんは喜びを隠さずに満面の笑みを浮かべた。
「そうだ。一応、私の携帯電話を緊急連絡先としてお伝えしておきます。万が一なにかトラブルがあれば連絡してください」
「助かります。湯本さんはこの辺りに住んでいらっしゃるんですか?」
「ええ。ここから車で少し行った先に。山の暮らしはいいですよ」
へえ。この、コンビニすらない辺鄙な場所にね。
たしかに空気も綺麗で気持ちが良いが、生活するとなると想像もできない。
こんな山奥に住みながらキャンプ場を経営し、あのような人形も彫るなんて。浮世離れしているというか。悠々自適というか。どこかうらやましくも感じられる。そりゃ立派な口髭も生えるだろう。
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