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一通りの説明を終えて湯本さんが帰ってしまうと、カッチも「悪ぃ。ちょっと電話してくるわ」と言って場を離れた。
カッチはこうやって心配性の彼女に電話をする。今日は本当にサークル行事なんですよ。嘘ついてませんよ。君のことを忘れていませんよ。っていう証明のためらしい。相手の安心のために電話を入れるなんて、聞いているだけで面倒極まりない。俺なら絶対に無理だ。しかし面倒事でもやり遂げるのがマメな男。コミュ力お化けの男。そりゃモテるわけである。
ひとりになった俺を、すかさず「慧さーん!」と呼ぶ声がした。後輩の男子達がこぞって手を振っている。
彼らは渓流で釣りをしていた。どうやら釣り好きのヤツが、わざわざ釣り道具を持って来たらしい。
「慧さんもやりませんか?」
「いいよ。俺は見てるだけで十分」
「じゃあビールどうぞ。少しぬるいんですけど」
「サンキュ」
後輩が竿を振る。ひゅんっという音のあとに、ぽちゃん、とルアーが水の中に落ちる。後輩がじっと浮の動きを見守っている中、俺は缶ビールを開けた。
静かだなぁ。
ビールはたしかに冷えが甘かった。まあ、ぬるい酒というのも、これはこれでキャンプの醍醐味である。
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