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向かいの山側からは木が何本も斜めに生えていて、渓流を覆うように枝葉を伸ばしている。風が吹くと、樹々はさわさわと音を立て、水面にはまるで鰯雲のようなさざ波が立つ。水面に葉が散る様は、本当に――
「綺麗だね」
――小さくつぶやく声がした。
いつのまにか隣に先輩が座っていた。
「秋の深まりって感じ。ね?」
先輩が耳に髪を掛けながら、俺に同意を求めた。
「管理人さんの説明、終わったんだね」
「はい。まあ、小さいところですしね。そうだ、先輩の荷物はロッジに入れておきましたよ」
「見た見た。ありがとー」
先輩が細い人差し指をぴんと立て、俺の缶ビールを指した。
「あ。ビール飲んでる~。ズルい~」
「先輩の分も持ってきましょうか?」
「ううん。一口ちょうだい」
そう言って、俺の手からさっと缶ビールを取る。
「……これ、ぬるいぞ」
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