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「仕方ないですよ」
顔を顰めた先輩からビールを取り返した。こういうやり取りをいちいち間接キスだのと騒ぐ年齢でもないのだが……。先輩の目の前で、その飲み口に自分の唇をつける勇気がない。
――ダサいな、俺。
俺はため息をついた。
「大丈夫? 疲れた? ここまで運転もしてくれたんだもんね。朝から買い出しにも行ってくれたんでしょ?」
「いや、疲れてはないですよ。すみません。ため息なんかついて」と否定する。
「慧と克己がサークルの代表と副代表になってくれて、4年生はみんな安心してるの。2人ともしっかりしてるし。克己は、ちょっとチャラいのが心配だけど」
「はは。カッチは彼女できたおかげで最近落ち着いてるんで大丈夫ですよ」
「彼女ができたら変わるもんなのね。慧は?」
「え?」
「慧は彼女作らないの?」
先輩の真っ直ぐな視線に、息を呑む。
彼女は、ずっといない。
いたことがない。
そのことは、先輩も知っている。
先輩が知らないのは――俺が、1年生の頃からずっと、あなたを好きだということだ。
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