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「作らないんじゃなくて、できないだけです」
冗談交じりの答えで、誤魔化す。
先輩は俺を構ってくれる。いつもそうだ。俺も、それを拒まない。だが――その先が踏み込めない。男として俺から動くべきなのかもしれないが、どうしていいかさっぱりわからない。はじめから意気投合しすぎたのが悪かったのか。2人で飲みに行くことも日常になっている。デートに誘ったつもりでも、結局いつもの飲み会になってしまって変化が生まれない。
どうすればこの関係性を変えられるのか。
正攻法で告白をしたらいいのか、と思ったこともあるが。それは……さすがに……勇気が出ないのだ。情けないことに。
打つ手のないまま、先延ばし先延ばしにして、今に至るというわけ。
また、俺を呼ぶ声が聞こえた。声の方向に目を向けると2年生の女の子達が束になって歩いてきている。きゃっきゃっと騒ぐ黄色い声。たった1学年しか違わないのに、妙に若く感じられる。
「お前らうるせえぞー! 魚が逃げる!」
釣りの真っ最中の後輩が俺の代わりに返事をした。お前の声で逃げてしまうのでは。
「慧さんっ!」と2年生の三田留美が駆け寄って来る。隣にいた先輩に気付いて「……あ、先輩もいらっしゃったんですね」と付け加えて。
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