2.不 和

9/11
前へ
/87ページ
次へ
「作らないんじゃなくて、できないだけです」  冗談交じりの答えで、誤魔化す。  先輩は俺を構ってくれる。いつもそうだ。俺も、それを拒まない。だが――その先が踏み込めない。男として俺から動くべきなのかもしれないが、どうしていいかさっぱりわからない。はじめから意気投合しすぎたのが悪かったのか。2人で飲みに行くことも日常になっている。デートに誘ったつもりでも、結局いつもの飲み会になってしまって変化が生まれない。  どうすればこの関係性を変えられるのか。  正攻法で告白をしたらいいのか、と思ったこともあるが。それは……さすがに……勇気が出ないのだ。情けないことに。  打つ手のないまま、先延ばし先延ばしにして、今に至るというわけ。  また、俺を呼ぶ声が聞こえた。声の方向に目を向けると2年生の女の子達が束になって歩いてきている。きゃっきゃっと騒ぐ黄色い声。たった1学年しか違わないのに、妙に若く感じられる。 「お前らうるせえぞー! 魚が逃げる!」  釣りの真っ最中の後輩が俺の代わりに返事をした。お前の声で逃げてしまうのでは。 「慧さんっ!」と2年生の三田(さんだ)留美(るみ)が駆け寄って来る。隣にいた先輩に気付いて「……あ、先輩もいらっしゃったんですね」と付け加えて。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加