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「残念ながら、いるんです」
先輩が、白けた声でつぶやいた。
「どうかした?」と俺が言葉を促す。
「あ、えっと。克己さんが、みんなで近くのキャンプ場まで歩かないかっておっしゃるので、慧さんもご一緒にどうかなって。もちろん先輩も」
なるほど。夕飯の準備をするには早いし、いいかもしれない。俺は先輩を見て「行きます?」と尋ねた。
先輩は小さく首を振った。
「留守番しておく。あちこち歩き回るの、もー体力的に辛いもん。おばさんだから」
「1歳しか違わないじゃないですか」
「その1歳が大きいの。ほら、君はいってらっしゃい」
気持ちはわかるが。まだ若いとはいえ、確実に体力も気力も老いていくのを俺だって実感している。でも――。
「一緒に行きましょうよ。せっかく、キャンプに来たんだし」
粘ってみたが、先輩はひらひらと手を振るばかりで、半ば強引に送り出されてしまった。
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