1.前 日

5/10
113人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
 後輩達がてきぱきと荷降ろしをしてくれたおかげで、トランクの中身はほとんど空になっていた。残されていたのはお菓子やおつまみの詰まった袋。あとは、先輩の私物。これなら俺とカッチで運べるな。  車内に忘れ物がないかを入念に確認したあと、両手に荷物を提げて俺達もキャンプ場へと向かった。 「今日は、4年生の参加は先輩1人だけか。日程が悪かったかな」  俺としては、4年生もできるだけ参加しやすいように色々と調整してきたつもりだったのだが。 「卒論の中間発表会ラッシュだもんなぁ。最近は誰もサークル棟に顔出さないし。ま、仕方ねーよ。そもそも、他の日程は予約でいっぱいだったじゃねーか」  それは、そうなのだが。  カッチは軽く流してくれたが、内心、俺は落ち込んでいた。形式上はサークルを引退している4年生達と一緒に過ごせるのは、残り半年足らず。サークルの行事も数えるほどしか残されていない。  キャンプに参加していない4年生らの顔が思い浮かぶ。頼りがいがありムードメーカーでもあった前代表。責任感が強く綿密なスケジュールを立てていた副代表。アウトドアが大好きでキャンプ行事は欠かさず参加していたあの人。酒が飲めればどこでもいいと言って行く先々で酒に潰れていた人も……。大学入学以来毎日のように顔を合わせていた愉快な面々と、随分会っていない気がする。  秋の気候のせいだろうか。別れの気配がだんだんと濃くなっていくようで、胸がざわざわするのは。少しセンチメンタルな気分だ。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!