1.前 日

6/10

113人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
「そんなことより、慧。そんな中でも来てくれてる先輩のことを考えろよ」  ……う。  ざわついていた胸が、カッチの言葉にきゅーっと収縮したように痺れた。 「先輩ね。うん。みんなの面前でああいうことされんのは、正直、参るよ」 「そう言ってやるなって。先輩は寂しいんじゃねぇの。4年生同士も最近はあまり会えてないみてーだし。なにより、もうすぐ卒業だしな」 「……さすが。彼女がいるヤツは女心に詳しいね」  カッチはニヤっと笑って俺の肩を小突いた。 「慧もさっさと付き合っちまえ!」  カッチの軽口は無視をして。キャンプ場へ続く道がなかなかに急な下り坂で、慎重にゆっくりと土を踏んで歩く必要がある。俺の無視なんかお構いなしに、カッチはぺらぺらと喋り続けた。マイペースな野郎なのだ。 「前から言ってるけどさ。慧って結構モテるんだぜ。信じてねぇだろ? はじめて会ったときの慧はさ。神経質そうだし根暗っぽいしでとっつきにくいったらありゃしねー。ダサさの一線を超えて逆に攻撃的っつーか。懐かしいな。でもな。よく見たら俺の次くらいには顔立ち整ってんなって気付いたんだよ。素材を徹底的に殺してる風なのがストイックでかっけーと思った。そっからは、言わずもがな俺のプロデュースが良かったよな? な? 今じゃ立派なイケメンだぜ! ……お。その表情は信じてないな。じゃあ言うけど、今日参加してる後輩の中にもお前のことが好きな子がいるんだぜ。はっは。さすがの俺も、誰とは言わねーよ! てなワケで、変に揉めないうちにさっさと1人に絞った方がいいと思うぜ~。……つ・ま・り」  カッチはずずいっと俺に顔を近づけた。 「さっさと告白しろ!」 「できるかッ!」
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!

113人が本棚に入れています
本棚に追加