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俺が女子相手に普通に接せられるようにはなったのは、コミュニケーション能力が化け物のように高いカッチに便乗させてもらったおかげである。だが、恋愛となれば話は別だ。
今は――先輩との、この微妙な距離感をどうしたらいいのか戸惑っている。
ちっともクールなんかじゃない。
ようやく狭い坂道が終わりに近づくと、川のせせらぎが聞こえはじめた。あちらこちらに赤い曼珠沙華が咲き誇っている。ちょうど見頃の季節だ。花開いた曼珠沙華に出迎えられながら、木々や植物がだんだん密になっていく。ロッジはなかなか山深い場所にあるようだ。
時々顔にかかる枝葉を振り払いながら歩いていると、行く先に奇妙な物が目に入った。
木彫りの人形?
2メートルはあるだろうか。太い木の幹を彫って作られた人形が、堂々と道の両脇に聳え立っている。人形には胴体と呼べるような部分はなく顔だけが何段も重ねられていた。
「……ちょっと不気味だな」と素直に感想を述べる。
人形の隣に「ちちぶビレッジ」とこれまた木彫りの看板を見つけた。人形のインパクトに完全に気圧されていたが、ここがキャンプ場の入り口らしい。
「俺、こういうの見たことあるぜ。どっかの民族の工芸品じゃねーかな」
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