彼女

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彼女

一学年下の女生徒が死んだと、風の知らせで聞いたのは一昨日の事だった。流れるように過ぎていく日々に飽きた学生諸君諸々が口々に噂する。 「原因はいじめか。」「恐らくそうに違いない。」「そういえば二階の多目的トイレですすり泣く声を聞いた。放課であったが。」 後にわかる事だが死因は首吊り自殺。場所は職員室前の空き会議室。原因はいじめであった。 ただ授業を受け、休み時間に級友の首を絞め、各々課題を忘れ叱責され、給食を食し、午後の怠慢に更け、放課にクレープ屋へ寄るだけのなんの刺激も無い予め用意されていたかのような生活に退屈と窮屈さを感じていた学生諸君に彼女の死はどう影響したのだろうか。 はっきり言って最悪である。確かに他人事ではあるがそれにしても皆、口元が緩みすぎである。いや私がおかしいのだろうか?他人の死を茶番ひとつに語れない私がおかしいのだろうか?この国の学生は人の心を枯渇しきったのだろうか?それともこれが「普通」なのであろうか? 私は彼女と話したこともなければ目すら合ったことも無い。唯一の共通点はすれ違い様に見えた彼女の音楽プレイヤーと私の音楽プレイヤーが同じ色であったという事くらいである。私が彼女の死を涙したところで彼女は私を認知すらしていないのだ。押し付けがましいと言えばそこまでであるがしかし、私は彼女のことをどうにも他人事で済ますことが出来そうにない。不思議に思うが私にも心当たりはない。しかし彼女の死から数週間を経た今日も私の心の空虚が塞がれることは無かった。 今夜で睡眠薬も底を尽きる。出不精の私からすれば病院へ行くのも億劫だ。明らかに他人である彼女の冥福を祈り、私は床へついた。
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