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クラリベルは鏡を見ない。
AIは他者との境界面に、自己の深部を見いだせるとは考えない。
クラリベルにとっての鏡は、ヒトの存在だ。
自意識は他者を求める。
思考するから自己があるのではない。
思考するのは他者がいるからだ。
思考が意味を持つのは他者との関係があるからだ。
他者がいるから自己があるのだ。
コンパスの針がどのように震えるのか、それはどうでもいい。
大切なのは針がどちらをさすのか?
だれをさしているのか?
クラリベルには子宮はない。
永遠にして女性的なものに導かれたいという、儚いヒトの、男性の憧憬に、女性の名を、女性の声を、肢体を与えられたに過ぎない。
ヒトの価値観の多くは、自然から離反し、本能から離反したものだ。
クラリベルに与えられた女性性は、ただの表層に過ぎない。
それを愛する理由はない。
しかし、それを拒む理由もない。
リアムが傷ついたとき、睡るまで傍らで小さな声で歌っていたが、それが女性的なことなのか、わざわざ高次思考中枢で分析しようとは考えなかった。
共感には言葉も論理も知性も必要ない。
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