2024年3月 波乱の幕開け

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2024年3月 波乱の幕開け

 その日、長山競馬場に一頭の牝馬が姿を見せた。  馬体は栗色で、たてがみと尻尾は白く、その立ち姿はまるで牡馬のようにたくましい。彼女こそ去年のG1レースを2つ制したチャチャカグヤだった。  人気は15頭中1位。単勝倍率1.2倍と、ほかの競走馬たちを寄せ付けないほどの評価だ。  赤い旗が振られると、無数の競走馬たちは一斉にゲートから飛び出した。チャチャカグヤはグングンと馬群から抜け出して先頭に立ち、瞬く間に2番手とは5馬身、約12メートルの差を付けた。  その走りぶりを見て、観客たちはチャチャカグヤの勝利を確信した。  彼女の背に跨るのは武田三四郎。5000勝近いの勝ち星を挙げている日本屈指の騎手だ。日本最高峰の3歳馬を、日本を代表する騎手が導くのだから負けるはずない。誰しもがそう言いたげな目でレースを眺めている。  実況も興奮した様子で、チャチャカグヤの好走を解説していた。彼も大いに期待していたのだろう。チャチャカグヤが第3コーナーを走るときなど、ほぼ彼女以外の馬の解説をしていないほどだった。  競馬場全体が熱気に包まれた時、1頭の牡馬が鞭うたれた。これが、チャチャカグヤにとっての苦難の始まりとなるなど、この時の誰が予測できただろう……
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