無名の天才馬

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無名の天才馬

 千葉県の船橋市にある長山競馬場。そこで行われている競技を、液晶ディスプレイ越しに眺める2歳馬がいた。  彼は馬房の中で期待に満ちた顔をしていたが、だんだんとその表情からは笑みが消え、栗色のしっぽや、膝から下が真っ白な脚を落ち着きなく動かし、遂には目を皿のようにしながら画面を覗き込んでいる。 『姉さんが負けるなんてな…』  画像の中では無数の馬券が宙を飛び交っていた。悲鳴、罵声がタブレットを通じてその牡馬の耳にまで入ってくる。実況もまた動揺した様子でレースを解説していた。  今中継が終わったのは、長山競馬場で開かれていたG2弥生アサルトインパクト記念。見事に優勝してウイニングランをしていたのは、かつてチャチャカグヤが倒したダークホース、ジェントルキャロトだった。  先からタブレット端末を眺めていた牡馬は、鼻先を器用に動かしながら、ジェントルキャロトのデータを出した。 『調教師もきゅう務員も変わっていないな。となると本庄繁騎手か…?』
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