無名の天才馬

2/7
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/351ページ
 その牡馬は悔しそうに下唇を噛んだ。  彼は類まれなタブレット端末を扱える頭脳明晰馬である。様々なライバルたちのデータを集め、自分なりにレース結果を予想しようとしているが、本庄繁騎手とジェントルキャロトのコンビがここまで強くなるのは想定外だったのだろう。 『馬が合うという言葉はあるけど、ここまで強くなるものなのか…』  それから30分ほどでチャチャカグヤが戻ってきた。どうやらこの納屋も長山競馬場のそばにあるようだ。 『お帰り、姉さん』 『ただいま、シュバ』  シュバというのは、この頭脳明晰馬の愛称だ。登録されている名前はシュバババババババ。どうしてこういう名前になったのかについてのエピソードは、ここでは割愛させてもらおう。  そのシュバと呼ばれた牡馬は残念そうに姉馬に言った。 『あんなダークホースがいるなんて思わなかったよ』 『シュバ、姉さんの仇…取ってね』  どうやら、チャチャカグヤの落胆はシュバの思った以上のものだったようだ。考えてもみれば、シュバとチャチャカグヤはアサルトインパクトの孫。今日のアサルトインパクト記念は、是が非でも優勝したかったに違いない。
/351ページ

最初のコメントを投稿しよう!