カグヤの名に懸けて(東京優駿)

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 シュバが向こう正面の直線コースに踏み込んだ時、既に2番手との差は15馬身ほどまで広がっていた。  勢いの付いたシュバは、そのまま向こう正面の上り坂を駆けあがり、いったん、2番手との差を12馬身ほどまで縮めた後、再び15馬身差まで広げていく。  彼は坂道を下りながら、第3コーナーへと踏み込んだ。  その行動を見ていたマンモスウォーリアは『そうか…』と呟くと、少しずつその速度を上げ始めた。この様子だとシュバの策を読んだのだろう。  実はシュバは、向こう正面の坂道を上がった後、少しずつペースを落としていた。坂を下っているため勢いがあるように見えるが、彼はしっかりと一息入れて休息をとっている。  後はバレないように、少しずつペースを落としていけば、後続馬たちへのカモフラージュも完ぺきだったという訳だろう。  マンモスウォーリアは凄みのある笑みを浮かべた。 『二度も同じ策に嵌るとでも思ったか!?』  マンモスウォーリアは2番手に出ると、少しずつシュバとの差を縮め始めた。彼はかつて敗れた札幌2歳ステークスを思い出している。あの敗戦で彼らの払った代償は大きかった。  まず、騎手7名は全員が牧場への出入り禁止。実質的にクビを言い渡され、マンモスウォーリアたちも待遇の良いきゅう舎から悪いきゅう舎、通称へと転属することになった。  蒼崎若社長はこう考えている。騎手に代わりはいくらでもいる。日本人がいなければ外国人を呼べばいい。調教師や馬も同じだ。自分の思うように動かないのなら締め出す。自分の牧場さえ儲かれば日本や競馬業界がどうなろうが知ったことではない。日本競馬協会に対しても大手としての圧力をかければいい。世の中は自分のために回っているのだから。  マンモスウォーリアたちはそんな馬主と向き合うことを宿命づけられている。自分が生き抜くためには、何としてもグランパの栗毛姉弟を倒さなければならない。そのためにはまず、弟馬をこの東京優駿で抜き去って自分自身がダービー馬になる。それが無理なら、ここでタックルを浴びせて再起不能にする。  両者の差が13馬身、11馬身、9馬身と、じわじわと距離が縮んでいく。
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