無名の天才馬

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 馬運車のスタッフ控え席でも、真丹木調教師と柿崎ツバメが話し合っていた。 「チャチャカグヤなら、卯月賞も十分に優勝が狙えると思えますが…」  ツバメはチャチャカグヤの体を眺めた。その牡馬のような身体つきは、卯月賞でも十分に戦えると訴えているように見える。 『ツバメさん、私を桜花ステークスに参加させてください』  チャチャカグヤにそう希望を出されると、ツバメも嫌とは言えないようだ。本心では牡馬と戦って欲しいが、柿崎ツバメや、その父であるオーナーは毎月従業員に給料を払わなければいけない立場。やはり優勝賞金1憶円は大きいのだろう。  しばらくツバメが黙っていると、チャチャカグヤは更にひと押しした。 『牡馬のクラシックを制するのはシュバの仕事ですから』  そう言われると、シュバは驚いた様子で姉馬を眺めていた。その表情はやや赤らんでおり、姉馬に感謝しているように見える。  苦渋の決断を呑むようにツバメも目をつぶった。 「わかった。お父さんにそう伝えるよ」
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