【3】

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 翌日の土曜。  絵に描いたような青々とした晴天。  青い絵といえば――。  美術の時間に空を書こうとして、誤って賢治の顔に青い筆を走らせてしまったことがある。  仕返しにと、私は鼻先を黄色く塗られてしまう。いっそのこと二つの色を混ぜてしまおうと、私が顔をくっつけたら、賢治にメッチャ怒られた。  どうしてあそこまで怒ったのか。  今でも賢治謎行動選TOPスリーを飾る出来事だ。かくいう私も、なぜ顔をくっ付けようという発想に至ったのか、謎だ。謎が謎を呼んでいる。  そんなことを考えつつ、目的の山が一番近くにあるコンビニに、私はやってきた。  間近で仰ぐと、聳え立つ山々は生命力に満ちて力強く、壮観だった。  約束の十時の十五分前にたどり着いたのに、リュック姿の賢治が既に開けた駐車場に佇んでいた。律儀すぎる男だ。実に友達甲斐がある。  賢治は立夏の登山に適した青いアウターレイヤーを着ている。水捌けが良さそうな服だ。ポケットも多めに付いている。  私はリュックもなければポケットも少ない。  山で何か拾ったらとりあえず賢治に渡そう。キノコとか珍しそうな昆虫とか。そんで返してもらう時に、本当に欲しいものかどうかを今一度考える。  我ながら嫌わそうな名案だ。実行に移す気にはなれないや。
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