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私の装備は、白無地の長袖に水色のカーディガン。下は一応、動きやすそうなゆったりめのジーパン。今更ながらに、山の神に怒られそうな舐めたファッションで来たものだと思う。
山道はキツくないって聴いていた。
もしハシゴをのぼるような急勾配に出くわしたら、賢治に負んぶか抱っこをしてもらおう。
「やっほー賢治」
「おう、早いな」
その言葉はそっくりそのままお返ししたい。
「昼食はとってきたか? ここイートインできるみたいだし、もし良かったら――」
「ちゃんと食べてきたから大丈夫」
私が親指を立てると、賢治は残念そうに肩を竦めた。
「ならいいが」
「そんなことより、その子がアースちゃん!?」
賢治はすぐに取り繕うように、肩に乗ったアースちゃんを掴んで私に差し向けた。
「手に乗っけてみるか?」
「うんうん! うわー可愛い。賢治のペットとは思えないほど可愛い」
「見た目の割に重いから気をつけろよ。それと、一言余計だ」
平らに広げた両手のひらにアースちゃんが乗る。
ずしりと重い。表面はさらさらしていて、肉眼で見ると黒ずんだ色をしている。
「こいつ、俺の生まれた日に俺ん家にやって来たんだ。……って話したっけ?」
「きっと賢治に惹かて来たんだね。赤ちゃん賢治にツバを付けるなんて、物凄く先見の明があるね!」
精霊を飼うためには、まず精霊が人間を見初める必要がある。
心を通わせてきた精霊を人間が受け入れて、初めて互いの友好関係が結ばれるのだ。
もしこの関係性が崩れれば、精霊は平気で人間を見限ってどこかへ消えてしまう。
「間接的に俺のこと持ち上げられると、ちと恥ずいな」
賢治は満更でもない様子で頬を掻いた。
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