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 私にとって鎮雷祭とは、色んな美味しいものを食べて楽しむお祭りなのだ。  バナナクレープにチョコアイス、みたらし団子に綿あめ、オレンジジュースでしょーそれから、おっと! あれはベビーカステラだ! 場所は覚えておこう。  駅へと続く大通りの脇をビルが囲う。  駅近を除けばほぼほぼ平均所得以下が好みそうな住宅街だけど、今宵だけは別だ。  私たちは所狭しと出店が立ち並ぶ歩行者天国を、自由気ままに練り歩いていた。  私は水飴を舌で転がす。 「もごもごもご」 「そうだよねー、祭りと言ったら初手水飴安定だよねー。ふふ」 「もごもご!」 「はいはい、そうだねー。美味しいねー。ふふふ」  六年来の付き合いなだけあって、以心伝心はお手の物だ。  たまに何が「そうだねー」なのか私にも分からない時があるけど、細かいことは気にしない。お祭りってのは楽しくできることが正義なのだ。  しかし人が多いな。  ここへ来る途中で見つけたポスターの『去年の来場者数二十万人!』。人口二万程度の町が欲張りすぎだよ!  暑い。熱気が……蒸し暑さが……。 「スミちゃんはとうとう小学生着物デヴューしなかったねー。絶対可愛いのになー」   愛され口調で妙ちゃんは言うけど、その「絶対可愛いのに」は「私ほどではないけどね」という言葉の裏があるようで少し怖い。  実際妙ちゃんは可愛いと思うし、男子にも人気があった。
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