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「っぷは! いいのいいの、私そういうの興味ないから。ペロペロ。色気より食い気で生きていくから。それに、スーもいるし」
肩の紐生地に触れないように、首周りを水精のスーが移動する。
ひんやりと冷たくて気持ちがいい。おかげで納涼要らずだ。
「スミちゃんはー涼しそうだねー。こんなに暑いなら、団扇持って来れば良かったなー」
「スーを貸してあげたい気持ちはあるんだけど……」
スーは水精としてまだ幼く、水を操る能力もひよっこだ。人の形を模してはいるけど、細かな造形はなく、ほとんど腰から上だけの棒人間に近い。
着物に接触してしまうと、未熟なスーは生地に水分を奪われてしまうから、妙ちゃんの首周りは危なっかしくて近づけられない。
私が着物を着ない理由の一つでもあった。
コップに入れて運ぶ手もあるけど、スーが私の首周りを好むのだ。
「スーちゃんがダメなら、スミちゃんの大きなおっぱい貸してほしいなー」
「お、おっきくないよ」
去年あたりから急に膨らみだした。
クラスの女子と比べると大きいかもだけど、子供サイズの域はまだ脱していない。と思う。
「着物じゃないんだけど、これはこれで色気あるんだよねースミちゃんは」
「妙ちゃんはいったいどこ目線で語ってるの?」
「むぅーー。もちろん胸目線だよー。……これ、揉んだの?」
妙ちゃんの無遠慮な熱視線が胸に刺さる。
「揉んで大きくなったんじゃないよ!?」
「ほんとかなー」
「好きで大きくなったんじゃないし! ――それよりさ、今年もまた荒れそうだよ」
来たばっかりなのに、とぼやきつつ、私は墨で濃淡をつけたような曇天を見上げた。
遠くで雲が稲光する。と、かしこから歓声や拍手が巻き起こる。
「あー、スミちゃんが期待するようなこと言うからー」
期待は期待でも、当たって欲しくない方の期待だ。
「いつから鎮雷祭は、私の音声認識で反応するようになったの!?」
ゴロゴロと様子を探るような雷鳴がする。一層祭りの熱気は高まった。
「毎年思うけど、鎮雷祭って名折れだよね。雷雨にならないためしがないじゃん」
「神社で雨乞いと雷乞いの祝詞を捧げてるから、当日はほぼ間違いなく降るよー?」
神社を通った時の奇妙な声は、祝詞だったのか。
「毎年来てたけど知らなかった……」
「食い気の盛んなスミちゃんらしいねー」
「でもさ、自分たちから呼び込むなんて神主はアホなの?」
「ふふ。たしか伝承だとさー、供物を捧げた日は荒れ狂ったように雷鳴が轟き続けたんだってー。その翌日から晴天になるって話だったはずだよー」
「それが本当なら私も平伏して歓迎するよ? 実際は翌日も雷雨とかザラにある気がするんだけど……」
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