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「怪我もなかったし、これで許してくれよな。苺とブルーハワイにしちゃったけど、どっちがいい?」 「苺美味しそー」  差し出された赤と青の山に、妙ちゃんがいの一番で嬌声をあげた。まだ食べていないのに本当に美味しそうな声だ。 「はい、イチゴ味」 「ありがとー賢治くん、嬉しー!」  妙ちゃんは感嘆をあげながら、受け取ってぴょんぴょん跳ねた。  祭りの夜にかき氷と着物、とても様になる組み合わせだ。妙ちゃんと友達でいると、私には出来ない女の子の楽しみ方を知れる。  スーは賢治を警戒するようにうなじと後ろ髪の滝に隠れていたけど、ひょっこり半身を乗り出してぴょんぴょん跳ねた。真似をしたいお年頃なのだろう。可愛い。癒される。 「じゃー、はいブルーハワイ」 「えーっと……にはは……」  知らない人から物を貰ってはいけません、とお母さんに言われて育ってきた。  賢治がその例外だってのは疑うに疑えない。  ならなんて言えば断ることができる? そもそも断る理由がない。と同じくらい、受け取る理由もまた見つからない。  同じ年頃の男の子に食べ物を奢ってもらうだなんて、私はいつからそんな真似ができる子になったの? 「ねえスミちゃん」  私が悩んでいる間に、いたずら口調の妙ちゃんがそっと寄り添ってきた。 「こーいう時は笑顔で受け取ってあげるのが女の子の甲斐性なんだよー。ふふ」  こ、これが女の子の甲斐性?  フリーズしかかった脳に蠱惑的な言葉が染みていくのが分かる。 「甲斐性とか男の俺には分からないけど。ほら、この祭りって屋根を雨よけ代わりに使ったら商品を買うのが礼儀、みたいな暗黙のルールあるだろ? でも俺さっきジュース飲んだばかりでさ、喉渇いてないんだ。……溶ける前にこれ、受け取ってもらえると俺としても嬉しいかな」 「あ……」  心の中で固い何かが壊れる感覚がした。  ここまで言わせてしまっては、甲斐性関係なしに、受け取らないのは酷く悪いことのような気がする。
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