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私たちの身近には古くから精霊が側にあった。
水辺に行けば水精がいるし、火山に行けば火精が、雷雲には雷精、山奥や洞穴には土精がいる。暗精と光精は明るさに拠(よ)ってどこにでも現れる。
しかしまあ、人間社会に馴染んだ精霊はこの傾向が薄い。
一度公園へと赴けば、蜂や蝶を見かけるような手軽さで、水精や土精に出会うことができる。
件の光精は、精霊の中でも希少な存在で、人に懐くことはほとんどない。何かに固執することなく、すべてのものを遍(あまね)く照らす、これが光精の性質だからだ。
極々例外的に、人間と共にあろうとする光精が存在する。これらは変わり種と呼ばれ、世界に十匹だけ確認されている。
――いや、だからなんだって話だよ! 分からないものはいくら考えたって分からない。だってそもそも知らないんだもん!
黒板を背にした美スタイルのアラサーの女教諭と視線を交える。
教科書の変わり果てた偉人が、今までの私の中ボスとするなら、彼女はこの教室を牛耳る大ボスだ。
ここ!
「……っ」
私は数々の修羅場を乗り切ってきた表情筋を使って、ヒント哀願攻撃を仕掛けた。
「…………」
にこりと微笑む女教諭。
くっ、効果は今ひとつのようだ。
女教諭は顔を伏して、手にした教科書を指で繰り返し小突く――私を急かしているのか? 攻め入る隙を見い出せない。堅牢な要塞だ。取り付く島もないとは正にこのこと。
降参。ギブアップ!
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