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「すみません。わかりません」 「そう言わずに、川澄さんもうちょっと頑張ってみてちょうだい」  無慈悲かよぅ。  優しいのは声色だけだ。その心には鬼でも巣食っているのか。いくらなんでも酷くないかな。  高校という場所は、実社会での生き方を甘々な環境で学べる場所ではなかったの? こんなに必死に助けを求めている可愛い教え子に、ムチを与え続けるなんて。  私に飴をくれる心優しい人はいないの? 「なに答えに詰まってんだ? 教科書に普通に書いてあるだろ」 「へ、そーなの?」  重圧に溺れてあわや窒息しかけていた私に、後方から助け舟がやってきた。  これか!? 私はたゆたう船に乗り込んで、弱気から奮起してビックウェーブに対峙する。心境的には『いざ往かん! 鬼退治へ!』って感じだ。 「光精がよく死骸の近くに出現するのは、魂を浄化するためと古くから考えられてきたが、その身の光を当てることで腐敗を促進し土地の負担を減らすためである、と彼は突き止めた……です」 「はい、川澄さんどうもありがとう」  女教諭は一段と顔をほころばせた。――鬼が泣きながら去っていくのが見えた。気がした。  や、やった……私の心は平和を取り戻した!  私はいつの間にか正していた背筋を再度丸めて、頬をほの字に染めた近藤 康介をすこし恨んだ。 
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