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「賢治は親友だよ! にはは」  そして元の角度に戻っていく。 「細かい呼び方にまで気を使ってくれてありがとよ」 「あれれ、おかしいな……訂正すれば機嫌直してもらえると思ったんだけど。――それでえーっと、山の廃工場がなんだっけ?」  賢治は自身の右耳を指の腹でさすった。  これは気持ちを切り替えた際の癖であり、私にとって『真面目に話を聞かないとお小言をもらうぞ』っという良いシグナルになっている。 「もしお前にさ、他に予定が無いんなら、一緒に来てくれないか?」 「うん? 廃工場に? いいよ。面白そう」 「いいのか?」 「なんてったって、中学からの友人の頼みじゃ断れないしね。にはは。でも、なんでまた見に行きたいの? 賢治ってそんな光精に興味あったっけ?」 「心機一転したくて、その……景気づけに、ちょっとな」  滅多に見せない煮え切らない態度に、これは何か言いにくい理由が裏にあるなと直感的に把握した。  そもそも賢治は、気安く私に頼みごとをする性格じゃない。どちらかと言うと、何か問題があっても男らしくどっしりと正面から構えるタイプだ。  ここは一つ、悩みを抱えているというのであれば、友人として一肌脱いであげようじゃないですか! 「そういう事なら人手も多い方がいいよね。あの辺のグループにも話してみようよ」 「いや! 他の人は誘わなくていいんだ」  部屋の後ろで精霊談に花を咲かせている男女トリオに声を掛けようとした私の視線を、賢治が食い気味に遮った。  もしかしてトリオに、夏休みの子供みたいな提案をするのが恥ずかしいのか? 私を誘えたのだから、もう破れかぶれになってしまえば楽になるのに。 「そっかそっか、うんうん。光精を探しに行く理由を、私に擦(なす)り付けてもいいんだよ?」  精霊に仕打ちした罪の告白を聴く光精教会の神父の気持ちが、あ、分かっちゃった。 「なんの話だ? その慈しむ顔やめてくれ、喋りづらいから。――代わりにほら、アースを連れて行くよ。お前も実物と会ってみたいって言ってたろ?」  アースとは賢治が飼っているアーチ型の土精のことだ。
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