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【1】
腰まである長い髪が顔にかかって邪魔っぽい。
ついでに無駄に大きな胸も机につかえて邪魔っぽい。
家に近いからという理由で通っている高校の、二年次教室の窓際中央席。に、突っ伏す私。
今日も今日とて、空は青くて雲は白い。
BGMが世界史教諭の”堕落する呪文”でなければ、ぐっすりと眠れそうなのに。
せめて何か書いているフリくらいはしてくれよ……、という中学時代の恩師の言葉をふと思い出す。たしかに少し悪いことをしたな、と反省したものだ。
私は残り僅かな集中力を総動員して、右手に掴んだボールペンを動かしていった。
綿々と教え伝えられてきた世界的な偉人の載った教科書に、私なりに必要だと思う部分を書き足していく。
頭皮には反射光を、手には魔法のステッキを。
これは……。
意図せずに偉人の業を深めてしまった。
「私にこんな才能があっただなんて、まさか……私って天才なのでは?」
正面やや斜めから撮られた被写体は、顔をきりっとこちらに向けて姿勢正しく立っている。ボタンの上まできっちり締めた堅苦しい濃紺色のワイシャツに身を包み、口元を固く結んでいる。
「に……には、にはは……」
笑ってはいけないと思うのに、頬が弛む。偉い人なんだ。敬意を、敬意を感じるんだ、私!
見れば見るほど、威厳のいの字も感じられない。
笑うな、笑うな。
第一の門、エクボは解禁され、続いて食べる時には便利な大きな口が開いていく。これで、喉にある警鐘が盛大に揺れた時には既に遅しだ。
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