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「副館長、こんにちは」
入館窓口から声をかけると、綺麗に手入れされた顎鬚をいじりながら書類を書いていた副館長が顔を上げた。
副館長は丸い眼鏡が良く似合う、ダンディなおじさまだ。
「やあクラゲガールじゃないか。毎日ご苦労だね。愛しの怜音にはもう会ったかい?」
「副館長! それ内緒ですから」
「怜音は中にいるから大丈夫だよ」
慌てふためく私を見て、クックっと副館長は笑っている。
くらげちゃんに、クラゲガール。加住親子は私のことをクラゲの仲間だと思っているのかもしれない。
「今日は随分と気合いが入っているようだけど」
副館長は、自分の唇と髪を差してニヤリと笑った。
「違うんです、これは。友達が勝手に」
私は色つきのリップを塗った唇を巻き込んで隠した。髪も珠理にアップにされたから、うなじがスースーしてなんだか落ち着かない。
「まあそりゃあ、おじさんばかりしかいない水族館に来るのと、怜音がいるのとでは違うよな。ああなんで私はステラと別れてしまったんだろうな。今だってこんなに愛しているのに」
うるうると瞳を潤ませる副館長は、ダンディな見た目によらず可愛いところがある。
元奥さんのステラさん、つまり怜音くんのお母さんは、フランスの通信社から来た東京支局の記者で、バリバリのワーキングウーマンだった。
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