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「クラゲガール、恋は儚いものだというけど、愛も儚いものだったよ。それでも人は恋をせずにはいられない生きものなのさ。私も新しい恋を探すしかないんだろうな」
副館長は急に詩人のようなことを言いだした。
「副館長ならすぐに見つかるんじゃないですか。ダンディでかっこいいですし」
「本当かい! まだ私もなんとかなるだろうか」
涙目で縋るように手を握ってきたと思うと、副館長は頭を押さえながら、うめき声をあげた。
「おい親父。どさくさに紛れて、くらげちゃんの手なんか握っているんじゃない!」
副館長の後ろから事務室に入ってきた怜音くんが、持っていたバインダーで副館長の頭を叩いたからだ。
「痛いじゃないか、怜音。人聞きの悪いことを言わないでくれよ。私は別に疾しい気持ちなんて全く」
「なくてもダメ。さ、くらげちゃん行くよ。妻に逃げられていじけているおじさんの相手なんかしなくてもいいんだよ」
「でも副館長がなんだか可哀想で……」
「クラゲガール、おじさんはその一言が何より堪えるよ」
ぶつぶつと言っている副館長を置き去りにして、私は怜音くんの後をついて展示エリアへ入っていくことにした。
突然怜音くんが現れたから、心の準備ができていなくて、心臓がバクバクしている。
珠理には告白しろって言われたけど、できるとは思えないよ。
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