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「もう! そんなことないの分かっていますから、からかわないでください」
僕が横から覗き込みながら近づくと、彼女は拗ねた顔をして離れてしまった。
「あーあ、逃げられちゃった」
少しは意識してくれたらいいのにな。
「ね、今日も僕、香水の匂いする?」
「はい、します」
「香りってね、過去の記憶を甦らせるんだって」
顔を上げた彼女は、不思議そうに首を傾げた。
「プルースト効果って言うらしいんだけど。くらげちゃんもこれからこの香水の匂いを嗅ぐと、僕のことを思い出すのかな」
「香水の香りで怜音くんを?」
「そう。これが僕の匂いだと、もうくらげちゃんの脳にインプットされていたらだけどね」
くらげちゃんは、匂いを確認するように鼻を動かしている。
忘れないでいて、なんて言える立場じゃないけど、僕は願わずにはいられない。
「今日はそのままバックヤードに直行でいい?」
「いいです」
くらげちゃんの返事を聞いてから、僕は従業員以外立ち入り禁止と書かれた、大きなステンレス製の扉を開けた。
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