3. バックヤードで会う時は side怜音

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 バックヤードに入るのは久しぶりだからか、キョロキョロしながら彼女はついてくる。  一歩足を踏み入れると海の匂いが漂う。香水みたいに爽やかじゃなくて、本物の海水の匂い。  流れ続ける水の音や、エアレーション装置が水の中に酸素を送り込む音が聞こえてくる。  水族館のクラゲ水槽の裏側は涼しい。室内温度をクラゲたちのために、絶えず調整しているからだ。  濡れた床の上を慎重に歩くくらげちゃんを見て、しまったなと思った。  長靴を貸してもらえば良かった。ローファーじゃ滑るよね。  バックヤードの床には、あちらこちらに排水溝があって、水で洗い流せるようになっているから、飼育員たちはいつも長靴を履いている。 「くらげちゃん、転ぶと危ないから掴まって」  手を差し出すと、くらげちゃんはちょっと戸惑った顔をしたものの、ぎこちなく手を重ねてくれた。  すっぽりと僕の手のひらに隠れてしまいそうな小さな手だ。 「ありがとう、怜音くん」  僕はくらげちゃんの手を握って、彼女の少し前をゆっくりと歩く。
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