3. バックヤードで会う時は side怜音

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 手を繋いだのなんてあまりに久しぶりで、ドキドキしてしまう。顔に出ていないといいけど。 「おっ、クラゲガールじゃない。ここで会うのは久しぶりだね。今日は何を見に来たのかなあ」  くらげちゃんがパッと手を離した。  顕微鏡を覗きこんでいた顔を上げて、くらげちゃんに話しかけたのは片岡さんだ。  前は、もうすぐ三十になるのに結婚相手どころか彼女との出会いもないと嘆いていたけど、今はどうなんだろう。 「ミズクラゲのエフィラです。怜音くんが見せてくれるって」 「それなら、もっと面白いものを見せてあげちゃおうかなあ」 「いいんですか!」  嬉しそうに片岡さんに駆け寄ったくらげちゃんは、僕のほうを振り返った。 「怜音くん、いいですか?」 「もちろん」 「ちょっとだけ待ってねえ。今、ポリプに餌をあげているから」  顕微鏡を覗きながら、飼育容器の中で柄つき針を二本器用に操り、片岡さんはポリプに餌を与えている。  ポリプ世代のクラゲは、一般的に僕らがイメージする姿ではなく、イソギンチャクのような姿をしていて、岩や人工物なんかに付着して生きているらしい。
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