3. バックヤードで会う時は side怜音

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「副館長がかわいがるのもわかるねえ。クラゲガールは本当によく知っている。これは刺胞動物門ヒドロ虫網花クラゲ目エダアシクラゲ科エダアシクラゲだよ。名前のとおり触手が枝分かれしているのが特徴で、傘が3ミリほどしかない小さなクラゲ。他のクラゲの水槽内に出現してしまう厄介な面もある」 「たしか少し前まで展示していましたよね。私、あれを見るといつもダウンを思い出すんです」 「ダウン?」  なんのことだろうと思っているのは僕だけじゃないみたいだ。片岡さんも首を傾げている。 「あの、羽毛布団の中に入っているダウンです。家で使っているお布団から時々出てきてしまうことがあって、空中にふわふわ浮いているとエダアシクラゲみたいだなって思うんです」  片岡さんと顔を見合わせて、僕は吹きだしてしまった。でも気にする様子もなく、くらげちゃんはもう一度顕微鏡を覗き込んでいる。 「触手は4本。先端が球状になっているんですね」 「ほんとくらげちゃんって一日中クラゲのことを考えているんだな。僕もそのくらいクラゲが好きになれたら良かったのに……」 「怜音も嫌いじゃないでしょ」  独り言を口にしたつもりだったのに、片岡さんに聞こえていたらしい。
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