3. バックヤードで会う時は side怜音

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 僕はそんな彼女の喜ぶ顔が見たくて、以前はよくバックヤードに連れてきていた。  片岡さんが顕微鏡に向かっている間も、別の飼育員さんたちがバタバタと出入りしている。閑散としている水族館だけど、裏側はいつも忙しそうだ。  いつか僕もここで働くんだろうなと、小さい頃は思っていたんだよな……。  だけど、くらげちゃんや親父を見ていたら、僕には無理なんじゃないかって思えてきて、だんだんクラゲに興味を持つことを辞めてしまった。 「おい怜音! 勝手に入るな!」  くらげちゃんの後ろ姿を見ながら考えごとをしていた僕は、背後から聞こえた怒声に飛びあがりそうになった。  うわ、しまった。蔦下さんだよな、この声。  振り向くとやっぱり蔦下さんが、不機嫌さを眉間に刻み込んで立っていた、 「す、すみません! 副館長には事前に話をしてあったんですが」  緊張で声が震えてしまう。  蔦下さんは、一年半ほど前から加住水族館の飼育長を務めている人だ。
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