3. バックヤードで会う時は side怜音

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 おかげで親父や残った飼育員たちは、休みなく働かなくちゃいけなくなったんだよな。  あの年、親父は休みがないどころか、早朝から深夜まで水族館にいて、家には寝に帰ってくるだけの生活をしていた。  たまの休みに顔を合わせれば、もっと家族を大事にして欲しいとステラが親父を責め立てるようになって。  ステラはあなたは変わってしまったと泣いてばかりで、遂には水族館のことまで悪く言いだすし。  親父も暗い顔ばかりしていて、ステラがどれだけ責め立てても言い返しもしないしで。だんだんふたりの間には会話がなくなっていった。  あんなに仲のいい夫婦だったのに。  少しずつ壊れていく様を見ているのが、僕にはとても辛かった。  あの頃から、ステラは離婚を考えていたんだよな。親父は離婚の話をされると、いつもとても悲しそうな顔をしていた。  秋の終わり、新しい飼育長がやっと来ると聞いて、僕は期待していたんだ。  これで親父の仕事が減って、ステラとの関係が修復されるかもしれないって。  だけど、蔦下さんが飼育長になった頃から、加住水族館は変わっていってしまった。  飼育員たちはバックヤードに籠って飼育をしているだけになり、解説をする飼育員の代わりに情報ボードが水槽の隣につけられた。館内イベントはすっかり姿を消して、殺風景な水族館へと変わってしまった。  おかげで、お客さんはみんな、素通りするみたいに館内を通り抜けていくようになって。
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