海の藻屑になるには、まだ早い【宝島社この文庫がすごい大賞最終候補作品】

3. バックヤードで会う時は side怜音

　加住水族館は小さいし、誰も面白くない情報ボードなんか熱心にみたりしないから、全部見るのにかかる時間は十分程度しかかからない。本当につまらない水族館になってしまった。

　確かにくらげの飼育数や種類は増えたし、一時明らかに悪くなっていた飼育環境も改善されたと思う。

　親父だって、少しは早く帰ってくるようになった。

　だけど、加住水族館の魅力は完全に失われてしまったんだ。

　親父はステラが離婚すると決めたらあっさりと受け入れた。僕のことだって、簡単に手放して。

　あの頃の親父は、やる気をどこかに置いてきてしまったみたいになってしまっていて、引き留めることすらしなかった。

　だから僕は蔦下さんが嫌いだ。逆恨みかもしれないけど、あの人が来なかったらといつも思ってしまうから。