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「……そうですよね。部外者なのに、余計なことを言ってごめんなさい。私、もう少しクラゲを見てから帰りますね」
くらげちゃんはまた無理に笑顔を作リ、僕に向かってぺこりと頭を下げた。
「怜音くん、今日はありがとうございました」
「待って!」
くらげちゃんが行ってしまうと思ったら、咄嗟に彼女の腕を掴んでしまっていた。
水族館で手伝いができなかったら、もうくらげちゃんに会う口実だってなくなってしまう。
連絡先だってまだ訊いてもいないのに。
「怜音くん?」
どうするつもりだったのかなんて、自分だってわからない。とにかくまだ一緒にいたいんだ。
「くらげちゃん。今日は少し僕とデートしない?」
「え?」
彼女は気の抜けたような返事をして、口をぽかんと開けたまま、何度も瞬きを繰り返している。
「デートしようって言ったんだよ」
咄嗟に出た言葉だったけど、くらげちゃんはどうせ僕のことを軽い男だとしか思っていないみたいだし、押しに弱いから、強引に誘えば多分ついてきてくれる。
「え、あ、あの。クラゲは」
「クラゲはまた明日! 今日はまた蔦下さんに会ったら気まずいだろうし、たまにはいいでしょ。時間は大丈夫だよね?」
「……はい。大丈夫ですけど」
断られないってことは、嫌だってことじゃないよね。
「じゃあ、行こう! 帰りはちゃんと送って行くから、少し僕に付き合ってよ」
僕はまだ戸惑った顔をしたままの彼女の手を引いて、歩き出すことにした。
内心はバクバクだけど、それを見せないようにして。
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