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ふたりがもう他人なんだと思うと、心がズンと沈む。
親父とステラが離婚してからもう一年だ。それなのに僕はまだ、ふたりが元に戻る日があるんじゃないかという希望に縋りそうになってしまう。そんなこと、あるわけがないのに。
『気をつけて帰ってくるんだよ』
「うん。閉館までにはそっちに行くよ」
『じゃあ、またあとで』
「……あ、親父。あのさ」
返事がない。不思議に思って画面を見ると、通話はもう切れてしまっていた。
訊き損ねちゃったな。あの子がまだ水族館に来ているかを訊きたかったのに。
*
「片岡さん、こんにちは」
「おおー! 怜音、久しぶりじゃんかー。お帰りー」
加住水族館のチケット売り場を覗いた僕を、満面の笑みで迎えてくれたのは、飼育員の片岡さんだった。
ぬいぐるみのようにぽっちゃりとした体形も、語尾を伸ばす喋り方も変わっていない。
「チケットを一枚ください」
「チケットはいらないでしょ。副館長から怜音が夏休みはボランティアで手伝ってくれるって聞いているから。今日はもうすぐ閉館だし、中を回っておいでよー」
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