act.1

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娼館【蜃気楼】では娼婦も男娼も同じフロアで揃って売り出す。 俺は兄さん姐さん方から男・女の悦ばせ方を教えてもらい、メキメキと頭角を表した。 フェンディルは【蜃気楼】での俺の初客だった。 彼を悦ばせることに成功した俺は、彼のお気に入りとしておねだりの権利を得た─綺麗な服も豪華な調度も旨い食事も、俺はねだらなかった。 俺がまずねだったのは『読み書き計算』。 フェンディルはそんな俺を面白いと笑い、俺が望む以上の学を授けてくれた。 身を粉にして客をとった俺の目算として、俺の借金に利息を十分につけたくらいの儲けを店に出している筈だ。 そう踏んだ俺は、店を抜ける支度を始めていた── 男娼の商品価値寿命は、娼婦より長い。 男女共に、20歳をピークに、若さを求める客からの需要が減る。 娼婦の商品価値寿命は、せいぜい25歳。 それ以降は年増好みの客しか付かなくなるが、その為には美貌を保ち、娼技の他に外面が余程良くなければ稼ぎ続けるのは難しい。 娼婦達は(パトロン)探しに必死だ。 男娼も、若さ好みの客が大半だから事情は似たり寄ったりかもしれない。 しかし、男娼には女性客が付く─女性客は若さよりも性技に長けたベテランを好む。 だから男娼は30歳半ば頃まで稼ぐ事が出きるのだ。 けれど、若さを失った男娼が(パトロン)を見付けるのは難しく─年増の男娼の行く末はせいぜいジゴロか、日雇い労働の稼ぎを酒に()ぎ込む飲んだくれ辺りが相場だろう。
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