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わっ、ちょっと天使みたい
なんて喜んだのも束の間の幸せ
一言目から、苦手なタイプだと思うような男性は、私を気にせず小指を耳へと突っ込み、耳糞をほじっていた
こんな奴が精霊!?
ありえないんだけど!!
「 ったく…要件がないなら帰っていいか? 」
「 名を、ルナ…名前を言え! 」
コソコソと背後から聞こえたリクの言葉に、気怠けな、垂れ目の男へと顔を向けた
本意では無いが、折角の精霊なら…と頭に過ぎった名を告げる
「( フェアリー・アルピーヌユベール )」
「 なっ、はぁ!? 」
背後の二人には聞こえない程度の声で呟けば
男の身体に金色の鎖が現れた
首を一周し、そこから左腕を巻き、左耳には金色の石がついたピアスが嵌め込まれ、私の右耳にも僅かな痛みが走る
「 テメェ……猛獣使いか!? 」
「 光。私に力を貸して欲しい。一緒に幸せ探しを手伝ってくれない? 」
死ぬ必要が無いよう、死ぬ理由ではなく
生きる理由を見つける為に、また死ねない理由が増えるのなら、それならいっその事
彼にもその手伝いをして欲しい
怒りより驚きが、勝っている精霊は目を見開いてから、深く息を吐いた
「 精霊にとっちゃ、ヒューマンの寿命なんて大したことはねぇし…いいぜ?コウ…と言う名も気に入ったしな、力を貸してやるよ 」
光属性を持ってるのは見てわかった
口調はかなり悪いけど、白い歯を見せて笑った表情を見れば何処か安心する
精霊は、地面へと降り立つと同時に足元から服装が変わり、白い軍服のような格好に左肩から白いマントを着け、浅く帽子を被り、白手袋をした手で鍔をなぞった
「 よろしくな、…えっと…… 」
「 ルナだよ、コウ。宜しくね 」
リクより身長が低いものの、それでも180cmは有りそうに思える
27歳前後の若い顔立ちをじっと見ていれば、彼は私を見てから呟いた
「 腹が減ってるな?何か食わねぇと身体に悪いぜ? 」
「 なっ、なんで…そんな事を……! 」
それを態々言う必要が有るだろうかと驚けば、リクはいつの間にか人の姿に変わってから私の隣へと来た
「 Sランクの精霊だな。属性は光…。ルナには丁度よさそうだ 」
「 えっ、なんで? 」
「 光属性の精霊は、″ 嘘 ″を付かないんだ。例えるなら…天使と悪魔の、天使の部分か? 」
「 へぇ〜……? 」
そんな天使と言われても、あれかな…
何かしようとした時に、それは駄目な行いだよ。って言う天使と、ちょっとぐらいいいじゃないか、と言う悪魔がいるとするなら
その前者だと言う事になる
素直な精霊だと聞いてほっと安堵していれば、コウはリクを見て何かを言いかけた
「 さっきグリフォンの姿だったが…テメェ……まさか…ドr、ゴフッ!! 」
「 リクゥゥウ!!?な、なにしてるの!!? 」
「 そうそう、ドーナツ食いたいんだよ。よーく分かったな?凄いぞ、コウ!!男同士で食いに行こう! 」
何かを言いかけたコウを止めさせるように、リクの溝内への一撃に驚いた
流石の精霊もその場で膝を付けば、リクは男同士の話のついでにドーナツを食いに行く、とかで彼をズルズルと引き摺って早々に外に出て行った
「 えっ……ドーナツ…私も食べたいんだけど 」
そんな出会って早々に仲良くするのはわからなくとも無いけど、もう少しコウと話したかった為に残念だと思う
急に静かになった聖堂に気付き、ハッとしてから背後を振り向く
「 あ、神父さん。魔法書をありがとうございます。おかげで、いい?精霊を召喚できました! 」
「 あっ…い、いえ……。やっぱり貴女は選ばれた方なのですね 」
「 へ? 」
神父が居ることを思い出して本を返せば、彼はページを開き、一箇所だけ白紙になった部分を見ながら答えた
「 Sランクの精霊を呼び出したのですから。それに…あのランクなら睨み合いの末に名を奪う事が出来ますが…そんな必要も無く知ったようなので 」
他の猛獣使いならば、名を取る時に睨み合い、それが何時間でも続こうが行ってから
猛獣やら精霊が油断した時に名を知ることが出来るらしい
負けた事を認めた彼等が、尽くす事を認めるが、私のように早々に納得されるのは珍しいみたい
「 前の試験官が言ってました。ドラゴンに選ばれた猛獣使いだと…。でも、そんな事は無いんですよ 」
「 何故ですか? 」
「 あのグリフォンは偶々、怪我をさせてしまって、弱ってた時に名を知れただけで…きっと普段なら無理でした 」
リクの力があるからこそ、コウを召喚出来たに違いない
けれど、私一人なら無理だったんじゃ無いかと思う
あの時のリクに意識はなく、名を呼んでから目を覚まさせた
まるで、イカサマみたいだ
「 そんな事は有りませんよ。貴女が選ばれたのは本当だと思います。竜は…人を選びますから 」
彼が見上げた先にある、ステンドグラスに描かれてるのは、其々のドラゴンの姿だった
ハッキリと見てなくて気づかなかったけど、どことなく姿が違う
「 あれが…古代種? 」
「 えぇ、左が理性を司る。海竜。シードラゴン。人魚の生みの親 」
描かれた人魚と共に、青い鱗を持ち尻尾の先端がヒレのようになっていて、背中には背びれがあるドラゴンはまさに海に適した身体をしていた
「 右が、感性を司る。地竜。アースドラゴン。巨人族の生みの親です 」
「 えっ、でも…巨人は天空じゃ? 」
「 地上は彼等にとって狭く、窮屈だったので空に移動したのですよ 」
ジャックの豆の木みたいに、空に移動したんだと納得した
確かに木々が邪魔したら、一緒に暮らしてるエルフ達には迷惑だろうね
アースドラゴンはゴツゴツとした身体をして、ゴレームと似てるように角も太く、他のドラゴンより重そうにも見えた
そして、中央へといる白銀に輝くスレンダーなドラゴンの足元には、エルフのような人々が崇めるように描かれている
「 中央の知性を司る。天空竜…スカイドラゴン。知能の高いエルフ、後のヒューマンを生み出した竜。天空竜を含めた彼等は、時折興味を示した人間に名与え、自らの力を分けるのです。猛獣使いは…謂わば人と猛獣を繋ぐ事の出来る、ドラゴンに近い唯一の人です 」
ドラゴンが選ぶのは、心が優しく獣と人を差別せず、自分達がそれぞれに持ってない部分が特化してる人間らしい
天空竜なら、感性やら理性のある者が好きなんだろう
私は感性は無いし、理性は直ぐに砕けると思うんだけどな……
「 感情を知りたいから、心を通わせる事のできる真名か……。なんか、リクも言ってたな 」
「 おや、先程のグリフォンですか? 」
「 そう、私が楽しいとか、悲しいとか全部分かるから。色々知って気持ちを豊か?にして欲しいらしい。その為に、こんなランク上げなんてしてるみたいなものです 」
死ぬ事を選択してたのに、リクが頼んで来たら断れなくなってきた
苦笑いを浮かべて肩を竦めれば、神父は片手を顎に当て少しばかり考えてから答えた
「 珍しいですね。猛獣はそこまで感性に興味はないんですが…。知能が低い為に、人の様な知性を求めるのは分かりますが… 」
「 リクは賢いから知性なんて必要ないよ。あんな見た目で、私より感性は鈍いから 」
楽しんでる時や、怒ったり、困ってる時も傍観して眺めては考えてる素振りを見せる
そして、やっと気付いた時に行動してくれるような獣だ
ほんの気紛れだろうとも、それが心地良いと思ってる私は…相当、一人じゃないことに助かってると思う
「 私の知るグリフォンとは違うので興味深いですが、特殊個体は稀ですからね……。ですが、彼はもしかしたら竜に近いのかもしれませんね 」
「 近い? 」
「 ごく稀に、先祖返りする個体が現れるのですよ。その結果…竜の様な思考を持ち、行動する猛獣も現れるらしいですが…もしそうなら、有り得ますが…事例も少ないので… 」
調べる必要があると告げた神父に、私はリクの事が少しでも知れるなら協力すると頷いた
「 リクの事を知りたいから、私も何か知ったら伝えるね 」
「 えぇ、此方も調べましょう。私の名は…ジャン・マルク。マルクとお呼びください 」
「 マルクさん。私はルナです…。猛獣使いであり、この国のことも知りたいのでもっと猛獣も竜も勉強するので…宜しく御願いします 」
「 此方こそ、何か分かればお伝えします 」
この国に来て、この国の歴史に触れる
全く、住んでいた世界と色々と違うけれど楽しそうだと思った
リクの事も知れるし、他の事も知れるから一石二鳥だ
お互いの連絡先と言うか、マルクさんが通信が出来る魔法石をくれた
時計みたいな天盤が刻まれてる事に、此処に来て初めて時間を知る
「 へっ、48時間で1日? 」
「 えぇ、そうですよ 」
何となく太陽が出てる時間が長いなーとか、一ヶ月いる!なんて思ってる私と違って、リクが傾げてるのが理解出来た
つまりなんだ…1ヶ月はあっていたけど、
そのかける2倍は既にこっちにいるってこと?
あ、これはさっさと老けるな…と自覚した
「 ……そ、そうなんだぁ…時計ありがとう。色々助かりました 」
「 いえいえ、もし良ければ…宿の代わりにお泊りください。いつでもルナ様をお待ちしてます 」
「 はい!宿に困ったらお世話になります。それじゃ…また! 」
「 えぇ、お気を付けて 」
優しい神父と知り合えて良かったと思う
宿に困ったら寝る場所すら確保されてるから、この街の…特に教会は拠点みたいな感覚でいよう
走って外へと出て、リク達を探した
「「 おかわり!! 」」
「( なんで精霊と猛獣が早食い大会に参加してんの?えっ…食べないんじゃなかったの? )」
一体、どんな理由があって早食い大会に参加してるのか分らないけど
本当に、ドーナツを口いっぱいに頬張ってお互いに睨み合ってる、人間姿の二人を見て
私の身体と頭は冷めきっていた
「 依頼でも見に行こう…… 」
あの二人は置いとこう、
関わって変な男連れに思われるのはゴメンだ
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