182人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
03 城に招待された
ドーナツ早食い大会をしてる二人を放置し、この街にある、掲示板の前へとやって来た
前の町と違って、デジタル板なのはちょっと驚いたけどね
Sランクに昇格した事で、此れまで見えなかった依頼まで見えるようになっている
どんな仕組みなのか分らないけど、受け取る石に少なからず魔法が施されているのだろうね
この世界で言う、立場の身分証明書みたいなものかな?と思っている
もしかしたら、私には見えてなかっただけでリクにはSランクまで見えてたかも知れないね
ただ、一つ…問題点があるとするなら
「( 猛獣使い限定のSランク任務が無い )」
其々職には、限定任務ってのが存在して
依頼者が、その職の人を決めて依頼するものらしく
特化してる分、報酬金も内容も他の職の人が出来ない物が多いけど、猛獣使いへのSランク任務はなかった
まぁ、猛獣討伐と言っても、使役するしか出来なさそうな猛獣使いに討伐任務はないか…
討伐任務は、騎士と言った攻撃が得意な職の人達しか無い
と言うか、そもそもどんなランクで有ろうと
猛獣使いへの任務が無いんだ
流石、存在することすら稀な職だけある
放っから頼りはしないって事ね
「 やっぱり任務は諦めるしか……ん? 」
諦めておつかい任務でもやろうかな、と思ってた矢先、掲示板に新たな依頼が浮かび上がった
「 猛獣使いへの任務だ! 」
それもBランク任務の、猛獣使いへの依頼だ
新しい猛獣使いが現れた事を知った人でもいたのだろうか?
よく分らないけど、初めての猛獣使いへの依頼が嬉しくて、内容を見る為に依頼を押せば
それだけが浮かび、目を通してはスライドさせる
任務内容は、
コカトリス属の卵を一つほど、採取を御願いします
採取なら簡単そうだと、リクの判断が無いまま承認ボタンを押せば、承認されました、と表示が出る
報酬金よりも、猛獣使いへの限定任務って事が嬉しくて如何でも良かった
と言うか、報酬金の金額を見て無かっただけかも知れないけどね
「 さて、リリスさんを探して聞いてみよう 」
何処にいるのか考えながら、パン屋のリリスと名前が書かれてただけだから
パン屋さんを探す事にした
ドーナツと言い、パン屋と言い、今日は小麦粉に縁があると思う
「 此処だ……いい匂いがする。ご飯抜きだったから、食べたいな 」
近くの人に、パン屋さんを聞けば直ぐに分かった
この街には1箇所しか無いらしく、それも人気らしいから誰でも知ってると
いや、誰でもではないだろう…私は知らなかったし
そんな事より焼き立てパンのいい匂いが、空腹の腹の虫を鳴らす
依頼より別にパンを食べたいと思い、扉を開け鈴の音が聞こえ、香り豊かな店内へと入る
ひっそりと佇むパン屋のように、戸棚に並んだ十種類以上のパンに本格的だと思う
「 いらっしゃいませ! 」
「 おや、可愛い…… 」
女性がやってそうな雰囲気があったけど、聞こえてきた声は幼い少女のものだった
紅色のエプロンとバンダナを身に着けた、金髪の子は、ブルー色の瞳を見せては此方に笑顔を向ける
「 君がリリスさん? 」
「 えっ、リリスはお母さんの名前です。お母さんに…御用ですか? 」
「 お母さんね…お母さんはいる?ちょっと依頼の事で聞きたくて 」
あ、やっぱりこの子がした依頼では無いのだと知る
問い掛ければ、首を傾げた女の子は答えた
「 お母さんは、用事があるって離れました。その間に私が店を…… 」
「 あ、依頼したばかりだから外なのか……。分かった、パンを食べながら待たせて貰ってもいいかな? 」
「 はい!お母さんのパンは美味しいので、ぜひ! 」
確か、依頼するには市役所ではないけど…そういった町にある場所で、依頼をして
許可されてから貼れるとリクが言ってたから、この子のお母さんは外なんだと納得した
嬉しそうに笑顔を向ける少女を見てから、木の板で出来たトレーを持ち、美味しそうなメープルパンと、知らないお肉だけど使われてるパンを乗せてレジへと行く
「 これを御願いします 」
「 はい!メープルパンが1つ、短角牛のビーフパンですね、お会計銅5枚になります 」
「 銀貨からで… 」
「 えーと…お釣りは… 」
金銭感覚もどんな金額かも分らないけど、とりあえず言われた金額より多く出していればいいかな?と思う
ほら、海外旅行の際に分からなかったら多めに出すというあれかな
リクからお小遣いに多少貰ってた中から、1枚取り出せば、女の子は銅を数えて渡してきた
「 ありがとう、そういえば…貴女の名前は?私はルナだよ 」
「 リースです! 」
「 そう、リース。彼処で食べるからお母さん来たら教えてくださいね 」
「 はい!あ、飲み物持ってきます! 」
小さい子は可愛いと思う
特に、頑張ってる子を見ると日本で孤児院にいたときに、年下の子達がいたからそういった子と被ってしまう
孤児院の先生達は余り好きでは無かったけれど、自分より小さい子は好きだった
お姉ちゃん!と慕われた時を思い出すと
少しだけ懐かしいけど、寂しい気持ちにもなる
ちょっとした食事の出来るテラス席に座り、早速買ったパンを口へと含む
リースが置いてくれた氷水を横目に、買い物をしに来たお客さんを見ては、リースが頑張ってるのを微笑ましく思う
「 あ、美味しい…… 」
甘みのある白いパンの中に、ミンチ肉と野菜が甘辛く炒められた物が包まれていた
パンとの相性がよく、牛サンドより好きだと思う
サンドイッチのパンは、パサパサしてるのが多いけど、この白いパンはもっちりとした柔らかい
食べやすいのに、昼御飯に最適なぐらいお腹にも溜まる
満足気に食べて、もう一つのメープルパンを口に含みながらのんびりとした雰囲気を楽しむ
「 ん? 」
「 すまない、やっと来れた 」
「 うっぷ…… 」
迷う事なくやって来たリクとコウ、コウに関しては吐きそうな顔をしている
あぁ、ドーナツ早食い大会を終えたんだと分かればコウは何事も無く椅子に座ってうつ伏せになり、リクは隣に立ち首を傾げた
「 此処で何してるんだ? 」
「 昼御飯のついでに、依頼者を待ってる。猛獣使いの依頼があってさ 」
「 既にか?どんな内容だ? 」
「 んーとね、コカトリス属の卵の採取? 」
どんな卵かはまだ聞いてないし、取り敢えず依頼内容を雑に答えて、此処にいる経由を話せばリクは考える素振りを見せてから、頷いた
「 やってみるだけ良さそうだな 」
「 あ、えっと……お水いりますか? 」
「 俺は大丈夫ですよ 」
「 ……頂きてぇ…… 」
人が増えた事にリースは戸惑いながら問い掛けてきた
ちゃんとお水を増やしてくれるのは出来た子だと思い、コウが手を上げれば彼女はすぐにもう一つ持ってきた
「 どうぞ 」
「 ありがとうさん!んっ…ンンッ…くー!スッキリしたぜ! 」
一気にガブ飲みしたコウに、こうやって見れば精霊なのか疑問になるけど、精霊なんだろう
まだ俺様で、ドーナツ早食い大会に出るような奴しかイメージはないけど、私服だと髪の毛が派手な青年ってぐらいにも思えた
「 いえいえ…あ、お母さん! 」
「 ん? 」
タイミングよく、依頼者である母親は帰ってきたらしい
お母さん!と呼んだリースに気付き、一瞬私達を見て驚くように目を見開いたけど
其々に会釈をして、話をする事になった
「 依頼を承諾してるとは知らず、遅くなってすみません 」
「 いえいえ、載ったばかりに承諾したのは私なので…お気にならさず。それで、改めて依頼内容をお聞きしたいのですが…? 」
前回、リクがシルバーウルフの内容を聞いてる時の真似しか出来ないけど
私の前に座った、リリスと言う名の若い女性はリースとよく似ていた
綺麗で可憐な女性で、雰囲気すら落ち着きがある
年上には思えるけど、私とそんな変わらないのに此処までしっかりしてるのは…店を切り盛りしてるからかな
「 …はい。依頼内容は、明確には分からないです 」
「 どういうことですか? 」
「 少し順を追って説明させていただきます 」
リクとコウは、私の判断を見てるだけのようで口出しはして来ない
二人とも彼女を見て聞いてるだけなのは、少しだけありがたい
此処で口出しされたら、きっと私が依頼を受けた意味が無くなると思う
リースは、もう少しだけ店内でお手伝いを続行してるために此処には彼女しかいない
彼女は、店内にいるリースへと視線を向け答えた
「 もうすぐ、リースの誕生日になるのですが…お手伝いを頑張ってくれる子に、前々から欲しがっていたコカトリス属の卵をプレゼントしたくて…けれど、パン屋の収入では…銀貨200枚には手が出せなくて…そこで、猛獣使いさんがこの街に来てると耳にして、依頼をさせて頂きました 」
やっぱりあんなに人が集まってたらなら、噂はすぐに広まるんだね
小さな町では無かったからそんなことは無いと思ってたけど、意外に早かった
依頼内容は、リースにプレゼントするコカトリス属の卵
それはつまり、ペット?用の卵ってことになる
ちょっとパンの材料にでもするのかと思ったけど、1つだと書いていた意味に納得出来る
「 商人から買うより、ずっと安い報酬金ですが…どうか、御願いします 」
「 いいですよ、報酬金は美味しいパンで結構です 」
「 えっ? 」
背後にいたリクと、隣でうつ伏せになってるコウですら驚いた声を漏らした
そんなに驚く事かな?と思うけど、私は言葉を続ける
「 私も猛獣使い専用の任務は初めてです。失敗するかも知れません。それを踏まえて今回は経験を積ませて貰いたいので…報酬は美味しいパンで御願いします 」
「 えっ、ですが…パンなんて食べてしまえば… 」
「 十分ですよ。ここのパンはもう一度食べたいと思うぐらい美味しかったので…。報酬は体力回復アイテムってことで 」
回復アイテム?と疑問を持たれたけど、私からしたら、気持ち的な空腹ゲージが上がるぐらい良かった
美味しいパンを、卵1つと交換しただけで貰えるならそれで十分だと思った
それに、初任務…と言う事は結構重要だと思う
手探りでやっていく為に、任務失敗を考えてその内容が私自身も納得出来る
「 それで良ければ…私も嬉しい限りです 」
ホッと安堵した表情を向けたリリスに、黙っていたリクは呟いた
「 確かに商人から買うと、業者を経由するから卵の額も跳ね上がるだろう。個人で採取すれば無償も同然のものを高値で売るんだ 」
「 あ、採取しようと思えば出来るやつなんだ? 」
「 他の猛獣がいるから戦闘経験が必要だから、一般は不可能だからな。ある場所は種で変わるが……あぁ、本当にシグリムの卵で宜しいのか? 」
軽く見上げて問えば、リクは頷いてからふっと気づいた事を問いかけた
シグリムでいいのか?って事に私もまた疑問になるけど、リリスさんも頭に疑問符を浮かべた
「 どういうことですか? 」
「 一般的にシグリムの卵は単価な移動手段用の猛獣になる。人を乗せて歩くからな。その点、金貨50枚以上で売られてる愛玩用の猛獣は、人を乗せる大きさもいるが…見た目含めて様々な種類が存在する 」
そういえば、金貨の方は色んな種類がいるんだっけ
まさに闇鍋のガチャみたいな、存在だから手を出すのも迷うぐらいなんだよね
まぁ、卵を見たらどんな種類であり名前なのか猛獣使いは分かってしまうから、きっと売ってはくれないだろう、とリクは呟いていた
「 えっと…そのコカトリス属しかわからなくて… 」
「 それなら直接、娘さんに聞いてもいいだろう。どんな種類が欲しいのか…明確であれば俺達も取りに行きやすい 」
「 あぁ、確かに……。サプライズには出来ないかも知れませんが…聞きませんか? 」
シグリムと言っても、卵を1つだけ採るなら色のカラーですら親を見て判断出来るらしい
数多く採って、1つだけ選んでもらうより
最初から1つを狙って、卵を貰うほうがいい
流石、猛獣であるリクはその辺りをよくわかってると思う
問いかけた私に、リリスは否定する事なく頷き
娘を呼んでくれた
「 えっ、ルナさん達。卵を取りに行ってくれるの!? 」
「 そう、だから…欲しい子とか、イメージとかあるかなーって 」
「 ある!ちょっと待ってて…あ、でも…いいの? 」
簡単な事を伝えれば、瞳を輝かせてリースは嬉しそう表情を明るくさせた
これは多少難しい猛獣でも、取りに行きたいと思うぐらい可愛いものがある
軽く頷いた私に、リースは喜んで店へと戻り何かを持ってきた
コカトリス属だったらなんでもいい、と思っていた母親からしたら真実に戸惑ってるのは分かる
まぁ、私も…違うんだ、なんておもってしまったけどね
最初のコメントを投稿しよう!